桔梗と雨

４

「わかっているの。私たちはあまりにもすれ違いが過ぎたのよ。その間にどうしようもない変化も起きてしまった。私の気持ちも。貴方の心も」
「僕の心もって、どうして貴女が言い切れるんだい」

　まるで駄々っ子のように忍田の腕の力が強くなった。女の体が折れるのではないかと見ている彩芽が心配をするほどだ。しかし当の女はただ優しく忍田の体をさする。背中だけでなく、腕も、頭も。持っている簪がその度に揺れてシャラリと鳴る。

「言い切らせて。でないと私も辛いのよ」

　貴方だけじゃないの、と女は呟いた。
　その言葉は雨音に溶けて消える。抱き合う二人は未だ消えぬ幻想の庭で、雨に打たれ抱き合っていた。

　彩芽の喉がコクリと小さく鳴る。息すらすることを忘れていた自分の体。それにようやく魂が返ってきたことに気づいたかのように、微かに襖に添えていた手が震える。体を動かそうと折っていた右足の先を動かした──その時。
　背後で足先が湯呑みを倒した感触があり、ハッと彩芽は振り返った。