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ひとまず客間にて濡れた忍田のためにタオルを渡し、熱い日本茶を用意した。悪い人間には見えなかったが両親が出かけていて祖母と二人っきりの今、自分がきちんと対処せねばと彩芽はまず忍田と話をすることにした。
お茶を一口すすった彼は厚ぼったいコートを脱いでもやはり野暮ったいグレーのセーターを着ていた。湯気の向こうで目を細め言う。
「小夜子さんは僕の先生だったのですよ」
とても優しげな瞳だ。
「彼女の筆使いはとても繊細でキレイで。どうしたらそんな風にキレイな絵を描けるのですか、と僕から声をかけたのがきっかけなんです。彼女は笑って言いましたよ。私はただゆっくり筆を動かしているだけなの、焦らずゆっくり……と」
その言葉は祖母らしいと彩芽には思えた。
おっとりとした祖母は家庭でも柔らかい空気を作っており、それにつられて娘や孫の彩芽たちまでおっとりとした性格になってしまった。「君らを見ていると急いでるこっちが変に思えちゃうよ」と言ったのは何事も時間通りに進めたい几帳面な父である。
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