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 そんな祖母にわざわざ会いに足を運んでくれたのは、孫としてもとても嬉しいと彩芽は思う。思うが、素直に喜ぶことができない事情もある。 「あの、忍田さん。実は祖母は今ほぼ寝たきりの状態で。その……最近では少し記憶も曖昧になっておりまして」  老年性認知症。三年前に脳梗塞を発症し倒れた祖母は、その時の後遺症で認知症となってしまった。  もともと口数も多くなく自己主張の少ない祖母だったので、家族はすぐには気づかなかった。しかしその魔の手は着々と祖母から思い出を奪っていたのだ。  作り上げてきた思い出の雫はポタポタと、祖母の手のひらからこぼれ落ち蒸発してしまった。しかし時に雲となり手のひらに雨を降らせ、ひょんなことから正気の祖母の姿を現すこともある。その時はドキリとこちらも驚くのだが、すぐにまたそれらはこぼれ落ちる。それが蒸発しどこかへ逃げていくのか、また雲となっていくのかはわからない。当人である祖母でさえもわからないのだろう。 「ですから本日来て頂いたのは大変有難いのですが、面会はあまりお勧めは……」  すぐに祖母の部屋に案内せず、客間へまず通した大きな目的はそれであった。言葉の最後を濁した彩芽に忍田の眉が下がる。無言の訴えに彩芽は目を伏せた。 「そうでしたか。すみません、突然来てしまいまして」 「とんでもございません」     
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