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それ以上は彩芽には何も言えずに、無意識に彼の「では帰ります」の言葉を待っている。しかし、彼は予想外の言葉を発した。
「それでもいいです。小夜子さんに会わせてくださいませんか」
「えっ」
驚く彩芽に忍田の力強い瞳がぶつかった。
「もし僕と会って混乱してしまうことを懸念されているのなら、無理にとはいいませんが」
「いえ、そんなことはございませんが」
認知症とはいえ性格は穏やかなままの祖母なら、見知らぬ男性が会いに来ても歓迎してくれるだろう。最近では彩芽のことさえわからず「まぁ可愛らしいお嬢様ね。お名前は?」なんて声をかけるのだ。おそらく彼も同じような言葉をかけられるだろう。
「会ってもわかってはくれないかもしれませんよ」
「承知のうえです」
もしかしたら、彼も認知症の老人と対峙したことがあるのかもしれない。全てを受け止めたかのような穏やかな瞳に、それ以上断ることは彩芽にはできなかった。
彩芽は彼を離れにいる祖母の部屋へ案内するため、会話もそこそこに席をたつことにした。
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