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「おばあちゃん、お客様がいらっしゃったわよ」
襖を開け祖母のいる和室へ入ると、お香の匂いが彩芽たちを出迎えた。長い年月を経て部屋に染み付いたこの香りはどこか懐かしく彩芽は嫌いじゃなかった。
祖母はいつものようにベッドにいた。
先ほど昼食を済ませたばかりだったので、ベッドの上部を少し上げて身を起こしたままにしていた。手元には薄紫のハンカチを握りしめている。
祖母の反応はいつもワンテンポ遅い。今日も声をかけてしばらくして、こちらを見た。
「こんにちは」
柔らかな表情を作っているものの、その中に戸惑いが見えた。きっと目の前の女が誰かわからずにいるのだろうと彩芽は考え「今日はハズレ」と心の中で落胆した。背後に立つ忍田を振り返る。
「どうぞ」
そう促すと彼は頭を少し下げ中に入った。
「こんにちは、小夜子さん」
そんな彼を見て祖母は目を瞬かせた。
きっと見知らぬ男性が入ってきたとしか思えないのだろうと彩芽の心がチクンと痛む……その前に。祖母は驚くほどの反応を見せた。
「まぁ、忍田さん! なぜここに」
え、と彩芽の体が固まった。
祖母が瞬時に忍田を理解し、名前を発することができた。そのことに愕然とした。
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