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 戸惑う彩芽をよそに、忍田は落ち着いた動作で祖母のベッド傍らにある椅子に座りゆっくりと言葉を紡ぐ。 「突然来てしまいすみません。どうしてもお会いしたかったので」  祖母は口元に手を当てて、ゆっくりとかぶりを振る。 「いえ、いえ。そんな。とても嬉しいわ」  その仕草や動作は何故かとても可憐に見えるものであった。祖母が少女のように頬を紅潮させ、本当に喜びを感じている。忘れ去られた孫はその現実を凝視し、一歩も動けないでいる。  彩芽の微かに働いた脳みそで考えられたことは「ここに居づらい」という何とも情けない感情であった。 「わ、私、お茶淹れてきますね」  そんな声は二人に届かなかったのだろう。お互いに手と手を取り合い感動の対面をしている。一種異様とも思えたこの状況を後ずさりに退室しつつも彩芽は目を離すことができなかった。 (一体、何だっていうのよ)  コポポポと小気味良い音を立てて注がれるお茶を眺めながら、彩芽は大きく溜息をついた。  血の繋がった家族を忘れているというのに、何年ぶりかに会う赤の他人の青年はバッチリ覚えている祖母に腹が立って仕方なかったのだ。しかも病気のせいであり、祖母が故意にしているわけじゃないから余計に腹が立つ。     
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