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 無意識下で彼女は私たち家族を軽んじて見ていたのではないかと、そんなことを考えてしまう自分にも彩芽は腹が立っていた。 (たまたまよ、たまたま。偶然、何かの記憶スイッチが入っただけで)  祖母が認知症になってから読んだ本で、そのようなことが書いてあった気もする。まだら認知症と言い、同じ日でも時間や血流の問題で調子がいい時と悪い時があるそうだ。  きっとそれなのだろう、と無理矢理結論づけて彩芽はお茶とお茶請けを用意したお盆を持ち再び祖母の離れへと向かった。  こぼさないようにゆっくりと運ぶと、湯呑みの中でお茶が小々波のようにゆらゆらと揺れる。 祖母の和室の襖を開けるためお盆を一度下に置くと、膝をつけ言葉をかけようとした。しかしふと、襖にかけた手が止まった。  それはきっと「魔が差した」というものだろう。こっそりと中を覗いてみようと彩芽は思ってしまったのだ。  静かに摩擦を殺しながら襖を動かす。  細い縦線の隙間から、聞きなれない音が滑りだしてきた。  それは室内で聞くにはあまりにも場違いな物音で──聞き間違えかと思ったがそうではなかった。まさしくそれは、雨音だった。  息を飲む。  彩芽は白昼夢を見ているような心地になった。
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