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 雨の庭だ。そこには桔梗(ききょう)色づく園庭が広がっていたのだ。  まっすぐ凛と立つ紫色の桔梗の花が、そこに立つ二人の人物を囲うかのように咲き乱れている。濡れた地面は静かに雨を受け止め色を濃くしていく。打ちつく雨は先程のような霧雨。雨と呼ぶにはあまりにも弱い存在の雨だった。  その中に溶け込む人物は男と女。あの忍田と若い女である。  若草色の着物に身を包んだ長髪の女と向き合い、忍田は彼女の肩に両手を添えている。まるで降り注ぐ雨から彼女を守るかのように背を丸めている彼の表情は彩芽からは見えづらい。 「……これを、貴女に」  雨音の中なのに、なぜか忍田の声ははっきりと彩芽にも届いた。いつの間に手に持たれていたのか、忍田は一つの(かんざし)を女の目の前にかざした。 「まぁ、きれい」  女の琴の音のような声も届く。言われた忍田は口の端をあげて簪を女の横髪に通した。 「桔梗の一本簪だよ。貴女に似合うと思って。……ああ、やっぱり似合っている」     
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