1人が本棚に入れています
本棚に追加
ラフクルは破損して中の開いた宇宙船から、僕も船内までついてくるようにと手招いています。僕は慎重に船の壁をつたりながら、船の内部へと入っていきました。
不時着した船の内部は、泥棒に荒らされた家みたく物が散乱していて、足場を探すのが大変です。
「こっちだ」一足先に奥に進んだラフクルは操縦席にあるフカフカの赤いソファーで座っていました。
「君に頼みたいことがあるんだフルーチ」
「なんですか?」
ラフクルはおもむろに服の下からぶら下げていたペンダントを外し、それをコクピットの操縦桿に吊るしました。
「これを」と彼が鋭い眼差しでこちらを見るので、僕はペンダントに手を伸ばします。ペンダントはラフクルのように僕の右手を避けることなく、しっかりと手中に収まりました。
50年間放置された鉄のそれは、ひんやりと冷たく僕の体温を奪っていきます。
「もし、地球に帰ることがあれば、そのペンダントを俺の婚約者に渡してほしい」
懇願する彼に、思わず身動ぎする僕。そののちに慌てて首を縦に振りました。それを確認した彼は囁くように言います。
「ま、そっちの時代ではもう死んでるかもしれないけどね」
「生きてますよ」
妙な緊張感のせいか、うわずった変な声がでてしまいました。彼は優しい笑顔でこちらを向き、婚約者の名前だけを僕に教え「頼んだよ」と念を押します。
やっとこの人の役に立てる。そして、小さな冒険も始まろうとしている!そう考えると嬉々と期待で心臓が高鳴りました。
僕はいつもより力強く、自信のほとばしるような声音で「任せてください」と胸を叩きます。
すると、彼は優しい笑顔のままうっすらと透明と化していき、やがて完全に姿が見えなくなりました。星の投影が終わってしまったのです。
彼の最後の笑顔は、きっとそれを知っていたからなんだろう、と僕は思い、今はどこにいるのか──生きてるのか、あのまま死んでしまったのかすらも分からないラフクル・ディアに向け、感謝の祈りを捧げました。
こんな寂れた惑星で、僕に大きくて単一的な冒険を与えてくれてありがとう──それは、必ずペンダントは届けて見せる、という誓いの意もこもった祈りです。
最初のコメントを投稿しよう!