時の公約数

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   僕はペンダントをぎゅっと握りしめたまま自分の宇宙船に乗り込み、自動運転の目的地を【地球】に設定しました。元気にしてるのかな、なんて事を思案しながら出発のレバーを下ろします。  長丸い船はホバーでゆっくりと浮き上がり、大気圏を抜けるまでは一定の速度で上昇を続けました。惑星を振り向いていると、エメラルドグリーンの発色は消えていて、薄目の灰色となった地表がどんどん遠ざかっていきます。さよなら、と僕は星に向けて小さく敬礼をしました。  大気圏を抜けると船は一気に加速し、窓から見える景色は完全に直線となって、瞬いています。  超光速航法を用いても地球までは丸一週間はかかってしまうので、僕は安眠供給装置に入って眠ることにしました。旅の疲れもあってか、いつもよりも早く睡魔が訪れます。   やがて睡魔に意識を吸いとられた僕は、深い眠りにつきました。   ──無意識と意識が混在する明晰夢の中で、僕はラフクル・ディアに出会います。彼は様々な形の時計に囲まれて、その時計の針の先端が示す、小さなレンズの中を除きこんでいました。  僕は直感的にここが予知者の予知空間であることを悟り、僕もその辺に転がっていた、ベルのついた小さな目覚まし時計の中を、ラフクルがやってるように覗いてみました。  すると僕の意識は宙を漂い、目覚まし時計のレンズの内部へと識域を移します。 ──そこは一週間後の未来──僕が地球へ帰還した先の未来の世界でした。  僕は宇宙船ターミナルにある自動運転のタクシーの中にいました。備え付けられたタッチパネルを操作して、画面に表示された地図上から目的地をタップし、現在地からそこまでの距離により算出された金を支払うと、タクシーは音もなく浮き上がり、宙路に沿って飛行を開始しました。  先ほどの静かな星とは違い、地球の都市部は賑わっていて、窓の閉まった車内からでも色んな音が聞こえてきます。  
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