時の公約数

13/14
前へ
/14ページ
次へ
「それで用事って?お母さんに頼まれたのかい?」  自分だけ大人用の、お洒落なカップでコーヒーを飲むカフ婆ちゃん。 「違います」と僕は膨れ面で否定し、後に続けました。「渡すものがあって来たんです、これを」  僕はポケットから鉄のペンダントを取りだし、カフ・ディアお婆ちゃんに手渡しました。   「これは......」  お婆ちゃんは気が動転したように大きく目を見開き、震えた手でそれを受け取ったのちに、何度もひっくり返したり、向きを変えてみたりして、そのペンダントを観察しました。 「やっぱり」お婆ちゃんはそのペンダントを、両手で抱き締めるように胸に押しあて「あぁ...」と声を漏らしました。やがてお婆ちゃんの顔はさらにしわくちゃになり、目からは大粒の涙が溢れ出してきました。 「ラフクル......生きてたんだね、あんた......」  肩を震わせ、声を喘がせながら泣きじゃくる彼女に、僕から返す言葉がありませんでした。僕はなにも言わずに、ただお婆ちゃんを傍観しています。  少し落ち着いてきたお婆ちゃんは、無理矢理に笑顔をつくり「ありがとう、カズくん」と僕の頭を撫でつけました。僕はそれに抵抗することもせず、なんとなく彼女と合わすことの出来ない、自分の目のやり場所を探しています。そして、苦いコーヒーを一口だけすすり「僕、そろそろ帰ります」と伝えて、家の前に再びタクシーを呼びました。  タクシーが僕をのせ、発進しても、見送るカフ婆ちゃんは家の外でずっと、こちらを眺めていました。  おそらく、僕が見えなくなるまでずっと......  ──宇宙船に響く、大きなアラーム音が僕の耳にがなり立てています。その音に目を覚ました僕は、重たい動作で安眠装置から身を起こしました。  今のは夢?それとも予知? 「ううん」と大きく伸びをして、操縦席の窓に視線を移すと、その先には既に地球が見えていました。   
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加