時の公約数

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 ひろいひろい宇宙空間で、小さな小さな宇宙船が、マンボウのようにゆったりと泳いでいました。乗員はこのぼく、カズ・フルーチのみ。  せまい船内で、船長気分にひたりながら、操縦席から星たちを見渡しています。(とは言っても、船は自動運航なのだけども)  しかし、それも退屈になってきたので、僕は備え付けの無線機を手に取り、役者さながらに演技しました。 「応答せよ!こちらキャプテン・フルーチ。船が宇宙人たちに取り囲まれてしまった。支給応援を頼む!」  船の周りに散らばっている、無数の隕石が、敵の戦闘機なのです。僕はそれを、遊びのためだけに取り付けた射撃音ボタンを押し、撃ち落としました。  「くそダメだ、船体は酷く損傷している。S・O・S!S・O・S!頼むから応答してくれ!」  すると、どこからか僕の台詞がこだましてきました。 『S・O・S!S・O・S!応答してくれ!』  ぎょっと声に驚いた僕。録音機能なんてこの船にあったかな?レンタル船なので全ては把握していませんが、僕の覚えている限り、そんなものは無かった気がします。  僕は音の出どころを探るため、台詞を繰り返し、耳をすましてみました。「あー」と言っても『S・O・S!』と帰ってきたので、どうやら声はこだまでは無いようです。  本当に誰かが助けを求めているんだ!  冒険の匂いを嗅ぎ付け、胸を踊らせながら受信設備のモニターを確認すると、約1光年圏内の惑星から強い電気信号が発されてるのが分かりました。  矢継ぎ早に僕は、船の目的地をその星に設定し、ワープ運航のレバーを下げます。船は大きく揺れ、ガタガタキイキイとがなり立て始めました。先程のマンボウとは打って変わり、獲物を付け狙うヨシキリザメのように宇宙空間を驀進します。   
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