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「何があったんです?」
「不時着したんだよ。ほら」
彼が首の動きで指し示す方を向くと、まるで叩き割られたスイカのようにまっぷたつになった宇宙船がありました。かろうじて分かる船の原型は、僕が見たことも無いような形をしていて、太いマジックペンみたいな輪郭をしています。
よくみると、男性が来ている服も宇宙服にしてはゴツくて、動きずらそうなデザインだと言うことにも気がつきました。もしかすると、他星の人かもしれません。
「何処の惑星で住まわれてます?」と雑談混じりに僕が聞く前に、彼は「君と同じ地球育ちの地球人だよ」と答えました。僕はあんぐりと開いた口が塞がりません。
「今ちょうど、その事を尋ねようかと思ってました」
「知っているよ」
僕はその意味を少し考え、やっと理解したところで「あぁ」という声を漏らしました。
「予知ですか?読心ですか?」
僕が尋ねる。
「予知で“既婚者”だ」
男はニヤリと口角を上げ、鼻で笑いながら答えた。あははと、僕は愛想笑いで返します。なんて優しいんでしょう。
──しかし、予知能力者であるのなら、何故不時着を回避しなかったんだろう?
そんな事を思案していると、また男性が「ぐっ」と苦しみ出しました。無理もありません、彼は外傷により、数ヶ所も出血していたのです。
僕が医療用キットを開くと、男性は「ダメだ、くるな」と頑なに僕を近づけません。
「治療した方がいいですよ」か細く震えた声で提案する僕。それでも、彼は首を横にふりました。
「もう......落ち着く」
何度か深呼吸を繰り返し、やっと痛みを沈めた彼。しかし、額からは汗がつたりおちています。
「何故治療しないんですか?」
僕が訊いても黙殺されますが、負けじと独り言のように質問を続けます。
「治療されるのが嫌なんですか?」
反応はありません。
「僕を信用してない?」
うつむいたまま、返答も身じろぎもしません。
「なら医療用キットを此処に置いておくので、自分で治療してください」
そう言って彼の足元に小型キットをそっと差し出しましたが、彼はそれを受けとるどころか、見向きもしない様子です。
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