時の公約数

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 全く返答を示さない彼に、とうとう我慢の限界を越えた僕は憤然とした態度で言いました。 「なにが気に入らないんです」  すると彼は、やっと此方を振り向き、フフっと鼻で僕を嘲笑しました。その反応に、更に怒りが込み上げてきた僕は「可笑しいことなんてありました?」と彼を睨み付けました。 「いや」と否定する彼の顔は、まだニヤニヤしています。 「もう大丈夫だ。俺は助かるよ」  そう言って彼は傷口を押さえながら、苦い顔をしてその場に寝そべりました。彼の真っ白な宇宙服には、砂がこびりついて所々緑色に光っています。 「助かりませんよ、その傷じゃ」  傷口からの出血量が致命的であることくらい、僕が医者でなくとも理解できました。しかし彼は澄ました顔で肩をすくめると「俺は予知者だぜ?」と僕の事を地面から仰ぎ見ました。 「助かるんですか?」 「あぁ」と彼。  僕は納得がいかない気分でしたが、予知者の彼がそう言うのなら正しいのだろう、と反論を諦めました。 「じゃあ、帰りましょうよもう。こんな寂れた星にいても何もありませんし」  そう、辺りを見渡しても生物の気配すらなく、探検するような動物がいるわけでもない星なのです。僕はこんな退屈な星に来たくて旅をしている訳ではありません。胸踊るような──誰もが知らない未知の体験を欲して旅をしているのです。  こんな星に居座っても時間の無駄なので、僕はこの男を近隣の星まで乗せてって、さっさと冒険に戻ろうと企てていました。  しかし、男が遮ります。 「それはダメだ」僕の不満な顔を一瞥したのちに、男は言葉を付け足しました。「そうすると俺は死んでしまう」  それは取って付けたような、予知者という立場を利用したような言い訳に聞こえました。僕は彼を訝しげに眺め、皮肉混じりに「治療しても死ぬんですか?」と訊きました。  彼は再び押し黙り、空をぼうっと眺めています。
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