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「この星は」と彼が話始めます。
「約50年の周期で強い電波信号を発するんだよ。まるで電子機器のようにね。そして星の中核から発される強い光が、この緑色の砂を通じて、過去の出来事をホログラムのように投影するんだ──約50年前を」
「それじゃあ父さんって......」
「あぁ」彼はうつむきながらそう呟くと、開き直ったように再び空を仰ぎ見ました。
「とっくに死んでるよ。だが、彼は50年前にこの星を訪れていたらしい」
僕が彼に送る言葉を探している間、何もないこの惑星のしじまが強く感じられました。風ひとつなく、気温だって平均的なのに、何故かうそ寒く感じます。
「彼は──50年前の彼は貴方を覚えてるんですかね?」
「いんや」と男は否定します。「その頃は俺も生まれていないから、彼は存在すら知らないよ。というより父さん自体もまだ子供だろうね」
あぁ、と僕が理解してから間もなく、彼は台詞の後に言葉を付け足しました。
「──丁度君のように」
「え?」
ほんの一瞬だけ、場が凍りついた気がしました。先程の物憂げな寒さとはちがう、鋭利な冷気が僕の背中をかすれていきます。
「父さんは君のようにブロンドヘアの男だった」
心臓がリズム良く、ドンドンドンドンと僕の左胸をノックします。
「父さんは君のように鶸色の目をしていた」
嫌な汗が、身体中から吹き出してきました。
「父さんはちょうど、君のような声で......」
まさか、そんな。僕は、確かに。
だが、もし、そうだとすると。
この星に来る前の記憶が、万が一、50年も過去のものだとすると......
僕は震える腕を男の方まで伸ばし、彼の身体に触れようとしました。が、僕の右手は彼をすり抜けました。鳥たちが空から落としていく羽根を掴もうとしているように、僕の手は何度も何度も彼を捉えようと手を伸ばしました。
しかしそれには実態がなく、虚空を切り裂くように、ただただ宙を舞ってます。
「ま、ま、まさか。そ、そ、そんな」
途切れ途切れの吃り声は、無意識下から発生したかのように感情が消え失せてしまったようにさえ思います。不安と恐怖に押し潰されそうで、泣きたいのに緊張で涙が出てこないことに、酷く悲しい気持ちになりました。
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