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「じ、じゃあ僕が、君のお父さんというのですか」
そして僕はもう死んでいると。今存在する僕も、過去の存在であると。自由意思など、僕にはなかったと......いや、違う。そうです。違います。
僕が過去の投影であるとするなら、彼は僕とコミュニケーションを取ることは出来ない筈でしょう。だとすると、彼に触れられない要因は別に存在している事になります。
「ぷ、あはは」彼は当惑気味の僕を傍観しながら、噴飯しました。
「君は僕の父さんではないよ」
その言葉に安堵する僕。
「でも、それなら貴方に触れないのは......?」
考えるのにも疲れてきたので、僕は最後の疑念だけは単刀直入に訊くことにしました。
「それはね」と彼が目尻を擦りながら、うすら笑いを浮かべつつ答えた。「僕の方がホログラムだからだよ」
僕は再び言葉を失いました。僕がさっきまで恐怖だと感じていた事を、こんなにも簡単に述べてしまうんだから、なんて言葉をかけていいのか分からなくなったのです。
彼としてはホログラムとして投影されているという考えしかないのでしょうか?
「......あれ?それだと、僕達がいま会話できているのはなぜ?」
「それは俺が予知者だから」
──あぁ、なるほど。そうか。そういうことだったのか。
「50年後の世界を予知して会話していると」
「そう」
それで彼は治療を拒んだのでしょう。物理的に不可能だから。僕の船に乗って脱出することも、彼には無理な提案だったという訳です。
「俺は、死ぬよ」
彼はそう台詞を投げ捨て、屈託の無いかのように大きく伸びをしました。僕はそんな彼を見つめることしか出来ません。
「本当は予知も数時間が限界だったんだけど、この星の特性のおかげで50年も先の未来が鮮明に分かるようになった。だから、俺がここで死ぬってことも、父さんには会えないってことも、今ではハッキリ分かるよ」
彼は大きく息を吐き、こちらを向くと、ぎょっと驚いたように目を丸くしました。
僕がいつの間にか、涙していたのです。静かに目元に溜まる水滴は、僕の視界を朦朧とさせ、やがて頬へと蔦り落ちました。
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