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「泣くまでは予知していなかったよ」
彼は困った表情で頭をかきました。
「予知だって、たまには外れるんですよ」
僕は涙を両手でふき、彼とは目をあわさずに鼻をすすりました。彼はやわらポケットティッシュを ズボンから取りだし、僕に渡そうとしましたが、途中でそれを僕が受け取れない事に気がつき、動作を止めました。それが可笑しくて、僕は少し笑ってしまいました。すると彼も、それを見て安心したかのように、僕に微笑みかけました。
「変な気分だよ。50年も離れているのに、君がこの場にいる気がしてならない。本当に俺は予知をみてるのかな?それとも、死にかけている時の幻覚かもしれない」
そういって、彼はその場を立ち上がりました。そして怪我をしている方の足を引きずりながら、真っ二つの宇宙船に歩き始めます。僕も緑の砂を払いながら立ち上がり、肩を貸してやることも出来ない彼の方を、じっと見守りながら後ろを追随します。
「君、名前は?」しわがれた声で彼が言います。
「カズ・フルーチです」
「そうか、俺はラフクルだ」彼は荒れた息を整えるために1拍おき、再び言葉を継ぎます。
「ラフクル・ディア。ま、忘れてもいいけど」
──ラフクル・ディア?
その名前を聞き、僕はみたび目の驚嘆を顔に浮かべましたが、満身創痍で歩く彼に対し疑問をぶつけるのは好ましくないと思ったので、その想念は胸の内にしまっておきました。
ラフクルが船にたどり着くと、何につまづいたわけでもなくよろけ転けそうになったので、宇宙船の壁にもたれかかりました。
「この船はそっちにも残ってるんじゃないか?」
「はい」
船はよくみると二重に累々していて、現在の方の船は錆びれ、少し地面に埋まっています。破損箇所からの黒い煙も、過去のホログラムとして空にたなびいていました。
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