§12

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 繋いでいない方の直輝の手が、すくい上げるようにして万葉の顔を傾けさせる。 「キスしていい?」 「いちいち訊くなって、もう」  尖らせた唇に、ふわりと、約束の続きのようなキスが降ってくる。すれ違えなかった記憶が、ひとつに重なる。  映画館の椅子に並んで座ったら手を繋ごう、と万葉はこっそりと決意した。  ずっと、繋ぎたいと思っていた手。心まで包み込むような直輝の手。  もう二度と、離さない。 (了)
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