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狭い独り暮らしの部屋が、急にがらんと広く感じられる。
万葉は無意識のうちに両手をこすり合わせていた。それからようやく気付いて、ホットカーペットのスイッチを入れた。
内容を思い出した映画を再度観る気にはなれない。画面を切って、ポトフとビールを一人黙々と平らげる。
「授業の準備でもするか」
寂しいと感じていることを認めたくなくて、わざと明るい声で独り言を言ってみたら、もっと寂しくなった。
二十二にもなって家に一人でいると寂しいとかどうなの、身体だけじゃなくて心まで寒がりかよ、と自分にダメ出しをする。喝を入れようとお気に入りの映画のサントラをかけ、威勢よく口笛を吹きながら、ノートの整理などを始めた。
五月から休学して四年生の前期の単位が取れなかったので、万葉は来年も四年生をやり直さなくてはならない。とはいえ、十一月からでも後期の授業に出ておいて損はないし、映画史をテーマに卒論を書く予定のゼミにはいずれにしても顔を出したい。
幸い、授業を受けた記憶は残っている。
「あれ、なんだこれ」
ぱらぱらとめくっていたノートから、一枚の紙片がひらりと落ちる。拾い上げると映画の前売り券だった。
一目見て、なぜかぎくりとしてしまう。
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