§2

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 狭い独り暮らしの部屋が、急にがらんと広く感じられる。  万葉は無意識のうちに両手をこすり合わせていた。それからようやく気付いて、ホットカーペットのスイッチを入れた。  内容を思い出した映画を再度観る気にはなれない。画面を切って、ポトフとビールを一人黙々と平らげる。 「授業の準備でもするか」  寂しいと感じていることを認めたくなくて、わざと明るい声で独り言を言ってみたら、もっと寂しくなった。  二十二にもなって家に一人でいると寂しいとかどうなの、身体だけじゃなくて心まで寒がりかよ、と自分にダメ出しをする。喝を入れようとお気に入りの映画のサントラをかけ、威勢よく口笛を吹きながら、ノートの整理などを始めた。  五月から休学して四年生の前期の単位が取れなかったので、万葉は来年も四年生をやり直さなくてはならない。とはいえ、十一月からでも後期の授業に出ておいて損はないし、映画史をテーマに卒論を書く予定のゼミにはいずれにしても顔を出したい。  幸い、授業を受けた記憶は残っている。 「あれ、なんだこれ」  ぱらぱらとめくっていたノートから、一枚の紙片がひらりと落ちる。拾い上げると映画の前売り券だった。  一目見て、なぜかぎくりとしてしまう。     
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