§3

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 右によけようとすると、ちょうど同じタイミングで向こうは自分の左足を出す。慌てて逆向きに身体を倒すと、これまた、相手は同じ方に重心を傾けてくる。  互いに通せんぼし合っているかのように、何度やってもすれ違えない。  レンガを模した敷石の上でぎこちない右往左往を繰り返した挙句、万葉はようやく傘を持ち上げて、相手の顔を正面から見た。 「あれ」  見覚えのある男だった。背はすらりと高く、肩幅が広くて手足が長い。真っ直ぐな眉と切れ長の目が少し硬い印象だが、きりっと端整な顔だ。  目が合って、相手も気付いたのがわかったが、向こうはにこりともしない。「硬派」を絵に描いたらこんなだろうか。  どこで会ったのだっけ。 「そうだ、思い出した」  あれは確か入学してすぐの頃、購買部の通路だった。右、左、右、と何度身体を横に振っても、いちいち被ってしまってすれ違えなかった相手がいた。あのとき、思わず見合わせてしまったのと同じ顔だ。 「二度目ですね」  照れ隠しに笑ってしまった万葉とは対照的に、立ち止まったままの彼はぶっきらぼうな表情のまま口を開いた。 「違う。三度目だ」  初めて聞く声は、意外なほど穏やかな響きだった。 「三度目?」  思わず問い返す。  彼は傘の中から、何か不思議なものを見るような目を、じっとこちらに向けている。 「あの……」  そのときだった。     
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