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まだ数回しか顔を出していないが、話題になるのは地味でも含蓄のある、知的な作品ばかりだった。
「あれ、小津安二郎のローアングルを彷彿とさせるよな」
「敢えて淡々と描くところが、たまらん」
「でも光と影の強いコントラストに、じわっと狂気を感じる」
そんな会話に万葉は入っていけなかった。
万葉とて、芸術性の高い作品を毛嫌いしているというわけではない。映画として優れていると思うものもある。ただ、そういうシリアスな作品について、よく知らない誰かと真面目に語り合うのはなんだか気後れがする。何もゼミで論文を書くわけではないのだから。
「話が合わないなら、無理に参加することはないんじゃないか」
フレンチトーストを綺麗に平らげた直輝は、数式でも説明するような口調で言った。滑舌のくっきりした話し方で、一つひとつの単語を丁寧に発音する。
「でもさ」
きっぱりと物事を言いきる直輝と話していると、自分が普段からいかに「でも」とか「とりあえず」とかの留保付きの言い方を多用しているかに気付かされる。
「俺だって、誰かと映画の感想を言い合いたい。くだらない話でいいんだけど」
「それなら遠慮しないで、自分の思ったことを言えばいい。誰も怒らないだろ、そんなことで」
正論だ。
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