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「でも、あの中に俺が観たおバカ映画のタイトルを割り込ませたら、すげー空気読めない一年って思われるよ。絶対莫迦にされる」
直輝は口に運んでいたコーヒーマグをテーブルの上に戻した。
「そんな理由で莫迦にするような連中、放っておけよ」
あれ、と思った。静かで落ち着いた口調の奥に、わずかに苛立ちのようなものを感じる。
表面ばかり取り繕おうとする自分の底の浅さにうんざりされたかな、と心配になったときだった。
「何が、面白い?」
「え」
「映画。最近観たやつで、面白かったの何かあるか」
「なんで」
「試しに一本観てみようと思って。で、よかったら感想聞いてくれ」
「え、それって」
「気楽に感想言い合いたいんだろ。相手は俺じゃだめか」
仏頂面にぶっきらぼうな態度。そして、なんのてらいもない、まっすぐに届く言葉。
「ただ、頼んでおいて悪いけど、ホラーとかサスペンスとかの怖い映画は苦手なんだ。心配せずに笑えるようなやつの方がいい」
あっさりと「怖い映画は苦手」などと言ってしまうところが、逆に潔くて男らしいと思う。万葉なら、初対面の相手にこんなことは絶対に言えない。特に相手がこんな男前だと、自分も少しでもカッコつけようと背伸びをしてしまう。
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