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一時停止状態になっていた人生の再生ボタンを、ようやく押すことができる。きちんとストーリーが繋がるかどうか少し不安はあるけれど、こうして一歩ずつでも前に進めるだけでありがたい、と、今の万葉は心から思う。
エントランスから伸びるスロープを下り、病院の正門を出て、駅の方へと曲がろうとしたときだった。
「わ」
こちらに向かってきた人影に、出会いがしらにぶつかりそうになった。
咄嗟に右によけようとすると、相手も同じ方向によけようとする。急いで左に重心を移動させると、向こうも同じように足を踏み替えてくる。いつまでたってもすれ違えない。
何かが、心の隅をかすめる。
相手の靴は、シルバーのバックルが付いた黒いエンジニアブーツ。一方のこちらは、チョコレートブラウンに白いラインが入った革のスニーカー。
はっと姿勢を起こすと、相手もまったく同じタイミングで顔を上げたらしく、まともに目が合った。
「万葉!」
顔や背格好よりも先に、その声が万葉の記憶中枢を揺さぶった。反射的に頭に浮かんだ名前が、唇から滑り出ていく。
「……直輝?」
目の前に立っているのは、万葉と同い年くらいの若い男だ。チャコールグレーのタートルネックのセーターに、下は細身のブラックデニム。モノトーンのスタイルが引き締まった長身を際立たせている。
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