§3

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 直輝なら、万葉がくだらない低予算B級コメディを勧めても莫迦にしたりしないだろう。そしてこんな風に、止め、はね、はらいをきちんと筆で書いたような律儀な話し方で感想を述べてくれるだろう。 「そうか、何がいいかな」  この際、うんとぶっとんだコメディでも勧めてみようか。この硬派の見本のような男前がハイテンションのギャグで大笑いしているところが想像できなくて、万葉はくすりと笑ってしまった。 「何笑ってるんだ」 「なんでもない」  不思議だった。ほぼ初対面の直輝とこうして話をしている方が、サークルに顔を出すよりもよほど楽しい。  ドリンクを半額でお代わりして、二人で話し込んだ。会合が始まる時間になっても、万葉は席を立たなかった。結局、そのサークルはその後二度と顔を出さないまま、あっさりとやめてしまった。
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