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§4
久しぶりに足を運ぶキャンパスは、秋の一大行事である学園祭も終わり、落ち着いた雰囲気を取り戻していた。
学生課で復学に伴う諸々の手続きをした後、図書館でいくつか映画論の本を漁った。一息入れようと思って構内のカフェに寄る。何か甘いものが欲しくなってカフェモカをオーダーし、店内のテーブルの方へと足を向ける。
「あ……」
夢の中で直輝と話をしたのと同じ席に、見覚えのある姿があった。黒っぽい服と広い肩幅で、俯き加減でもすぐにそうとわかる。
あれは甦った記憶なんだろうか。それともなんの根拠もないただの夢なのだろうか。
確かめてみようかと思う。直輝のテーブルに歩み寄り、その前の席にカフェモカのカップを置く。
「ここ、いい?」
手元の本に落とされていた直輝の視線が上を向く。万葉と目が合うなり、直線的な眉がぴくりと持ち上げられた。
「ダメだ」
「えええ?」
いきなりの全面拒否?
固まっている万葉の目の前で、直輝は椅子を引いて立ち上がった。テーブルを回り込んで、万葉の立っている側へやってくる。
「そっちの席は、ドアが開いたときに外の風が入る」
「へ」
「手足が冷えるって言ってただろ」
「あ……」
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