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声が裏返ってしまった。
「いや。久しぶりに呼ぶから、ちょっと発音の練習な」
「語学かよ!」
間髪を入れず突っ込むと、直輝の気配がふっと柔らかくなった。
表情はほとんど変わらないのに笑っているのがわかる。
俺、こいつのことよく知ってるんだ、と初めて実感する。きっと、これまでに数えきれないほど同じようなやり取りをしてきたのだ。
万葉は、はっと顔を上げた。
「直輝」
直輝が目だけで、なんだ? と返事をする。
「あの映画、観た?」
間違えてもう一度観ようとしてしまったニューヨークのクリスマス映画のタイトルを口にすると、直輝は表情を変えずに頷く。万葉は勢い込んだ。
「俺の部屋で?」
「ああ」
「俺がじいさんの車のカセットテープの話したら、お前、爆笑した?」
傍で聞いていたらなんのことやらさっぱりわからないだろう。だが、直輝は口角をわずかに持ち上げて思い出し笑いの表情になった。
やっぱりそうだったのだ。あのとき隣にいたのは直輝だった。
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