§4

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 問い返すと、直輝は珍しく、自分からふいと視線を逸らした。  過去の自分は、何か直輝を気まずくさせるような約束をしていたのだろうか。 「悪い。俺、なんか空気読めない誘い方しちゃった?」  敢えてうんと明るい声で言って頭を掻いてみせると、直輝はきっぱりと首を振った。 「そうじゃない。万葉は悪くない」 「ホントか? 俺、お前のことを忘れちゃったせいで、何か無神経なこと言ったりしてねえ?」 「いや」  コーヒーを飲み干した直輝は、遠くを見るような目をして言葉を探している。万葉はそれをじっと待つ。  直輝はテーブルの上に静かにマグを置いた。 「万葉が俺のことを忘れてしまったのは、俺のせいかもしれない」 「……え?」 「だから、無理に思い出そうとしてくれなくていい」  自分の言葉に句点を打つように、直輝が椅子からすっくと立ち上がる。 「ちょ、待てよ」  そのままコーヒーマグを下げようとする直輝を、万葉は慌てて追った。 「どこ行くんだ」 「これから病院」 「病院って、隣の?」  直輝は黙って頷いた。
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