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直輝のまっすぐの眉が遠慮がちに寄せられる。そのわずかな表情の変化で、彼を困らせてしまったことを知る。
「ごめん」
急いで謝ると、直輝が寄せていた眉をほどいた。
「なんで、そこで万葉が謝るんだ」
「いや。今の、感じ悪かったな、って。そんなこと言われても答えようがないよな、ごめん」
直輝が一重の目を見開いた。
「万葉は」
「ん」
「どうして俺の考えていることがわかるんだ」
「え。わかんないけど。でもお前今、困った顔したろ」
直輝がまた、自分の耳を軽く引っ張った。
「よくわかるな」
「うん。直輝の表情、わかりやすいよ」
「そんなこと、万葉以外から言われたことないぞ」
「そうかあ?」
直輝は穏やかに首を振ると、そのまま再び歩き始める。正門を抜けて、キャンパスを囲むレンガ塀沿いに病院の方へ。駅も同じ方面なので、万葉も続く。
斜め前を行く直輝との距離は、遠ざかりそうで離れない。万葉の歩幅に、直輝が足取りを合わせてくれているのだ。
角にある横断歩道の歩行者信号が、目の前で点滅を始める。
「渡るか?」
振り向いた直輝が、途端に、しまった、という顔になった。
万葉の足は、その場に釘で打ち付けたかのようにぴたりと止まってしまっていた。
「……」
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