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滅多なことでは全開で笑ったりしない直輝だが、時々こんな風に、万葉の言った何かがスイッチを押すらしい。一旦そうなると、声を殺しながらいつまでも笑っている。意外に笑い上戸だ、と何度か呆れたことがあった。
あの日、万葉の部屋であのクリスマス映画を一緒に観たときもそうだった。コタツの中で足を組み替えるとぶつかってしまうくらい近くで、直輝が笑っていた。
もう一度、あんな時間を一緒に過ごせたら。
「万葉」
エレベーターホールで立ち止まった直輝が、階数表示を見ながら思い出したように口を開く。
「また、万葉と一緒に映画を観たい」
「え」
同じことを考えていたことに驚いて、直輝の横顔を探るように見上げてしまう。でも、直輝はこちらには顔を向けようとしない。
「万葉が面白いって言ってたやつ、片端から観てみた。でも、一人だとあんまり面白くないんだ」
途方に暮れたような直輝の視線を追って、エレベーターの表示を眺める。この商業施設には上位階にシネコンも併設されている。
ここに二人で来たことがあっただろうか。思い出せないのに、なぜか心がひりっと痛む。
「うん。じゃあ、そのうち」
そう答えると、直輝はようやく万葉の方を向いて、わずかに目を細めた。
直輝が好きだ、と改めて思った。
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