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「ああ、はい。大学病院で臨床研究の協力者を募集していたので、登録しておいたんです」
事故の場合、病院に運ばれたときには本人の意識がなかったりする。そういうときのために、事前に再生治療について説明を受け、万一のときはその治療を受けるという同意を本人から得ておくのだ。
万葉はまさにそういうケースだったわけだ。
「一般教養で取った生物の授業の教授が、再生治療の研究にも関わってたんですよ。隣の大学病院が最先端の研究に取り組んでるって話で、学生に登録を勧めてたんです」
「そうか、命拾いしたなそりゃ」
「あ、そうだ。診断書とか必要ですか?」
「後で一応労務の担当者に確認しとく。ま、バイトだし必要ねえと思うけど」
それより、すぐにでも仕事を手伝ってほしいと岸谷は言う。
「この件が一段落しないと、安心して夏休みに入れないからな」
「夏休みって。もう十一月じゃないですか、意味わかんないすよ」
「短期で雇ったバイトが初心者でな、かえって仕事が増えちまったんだよ」
お前のせいだ、責任を取れ、などと言って、万葉の座ったデスクの上にどさどさと仕事を積んでいく。面と向かって褒められることは少ないが、それなりに頼りにされているのだと思うと悪い気はしない。
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