§8

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 それは、考えてもみなかった選択肢だった。  この会社は、基本的に新卒採用はしていない。社員は会社設立当初からのメンバーか、広告代理店やIT企業などから転職してきた人たちばかりだ。だが、岸谷が言うには。 「見てわかるだろ、最近人が足んねえんだよ。使える学生バイトがいたら押さえとけ、って社長にも言われててさ。十一月まで夏休みが取れないような職場だけど、人が増えればそれも少しはましになるだろ」 「……俺、『使えるバイト』枠なんですか」  岸谷はにやりと笑って、「とにかく、考えといてくれ」と言っただけだった。  社員として雇ってもらえる話はありがたい。ざっくばらんとした職場の雰囲気は以前から気に入っていたし、映画という好きなものに関わる仕事も楽しかった。将来はどうするんだと、何かと心配をしている両親も安心するだろう。  独り暮らしの自分の部屋までは、電車で小一時間かかる。車内は勤め帰りの人で混み合っている。  万葉は鞄からスマートフォンを取り出した。 「バイト先でスカウトされた。就職決まるかも」  早速直輝にメッセージを送ってみる。 「よかったな」     
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