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それは、考えてもみなかった選択肢だった。
この会社は、基本的に新卒採用はしていない。社員は会社設立当初からのメンバーか、広告代理店やIT企業などから転職してきた人たちばかりだ。だが、岸谷が言うには。
「見てわかるだろ、最近人が足んねえんだよ。使える学生バイトがいたら押さえとけ、って社長にも言われててさ。十一月まで夏休みが取れないような職場だけど、人が増えればそれも少しはましになるだろ」
「……俺、『使えるバイト』枠なんですか」
岸谷はにやりと笑って、「とにかく、考えといてくれ」と言っただけだった。
社員として雇ってもらえる話はありがたい。ざっくばらんとした職場の雰囲気は以前から気に入っていたし、映画という好きなものに関わる仕事も楽しかった。将来はどうするんだと、何かと心配をしている両親も安心するだろう。
独り暮らしの自分の部屋までは、電車で小一時間かかる。車内は勤め帰りの人で混み合っている。
万葉は鞄からスマートフォンを取り出した。
「バイト先でスカウトされた。就職決まるかも」
早速直輝にメッセージを送ってみる。
「よかったな」
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