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ロンドン版のパッケージを見せると、直輝は息を呑んだ。口を真一文字に結んで、探るような目で顎を引く。
「万葉、それ……思い出したのか」
直輝の慄くような声を聞いた瞬間、万葉の脳裏に稲妻が走った。真っ暗なスクリーンに画像を投影するように、忘れていた場面が甦る。
半券の切られていない前売り券。
返事の来ないメッセージ。
「思い出した」
記憶の蓋がこじ開けられていく。巻き戻した映像を早送りで再生するみたいに、記憶がほどけていく。
万葉は手にしていたパッケージを慎重に棚に戻した。ラックに触れた指先が震える。
ヒューマンドラマにはそれほど興味がなかった万葉がこの映画を観たきっかけは、直輝だった。ホラーもアクションも観ないというので、自分のバイト先の映画で評判がよかったものを試してみたのだ。
直輝が気に入ったようだったので、十二月にロンドン版が公開になったとき、映画館に観に行かないかと誘ってみた。
「二十四日なら実験も一段落するけど」
直輝の返事に、万葉は密かに怯んだ。クリスマスイブに男二人で観に行くような映画じゃない。
しかし、直輝が躊躇したのはもっと意外な理由だった。
「映画館って行ったことないんだよな」
「ええ? 一度も?」
「うん」
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