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 男らしく精悍な顔に、一瞬驚きの表情が浮かんだ。そこに少しずつ当惑の色が広がっていく。  万葉は咄嗟に付け加えた。 「今は、まだ」  年配の女性カウンセラーからは、万葉と同じように大学生の男性で、親しい友人のことを忘れてしまった症例があったと聞かされていた。 「その人、どうなったんですか」 「定期的に通ってきているうちに徐々に思い出して、今ではほとんど問題ない状態ですよ。だから、木村さんもあまり心配しないでくださいね」  そうは言っても、実際にその事態に直面すると平静ではいられない。  もし目の前にいる直輝という男が万葉の親しい友人だったら、ショックを受けるかもしれない。逆の立場だったら、友人が自分を忘れてしまったことに傷つくだろう。想像して、万葉の胸がつきりと痛む。  直輝は黙って万葉の顔を見つめている。正面の万葉にまっすぐに向けられているのに、どこか違うところにいる誰かを探しているかのような不思議な視線だった。  やがて、直輝は諦めたようにひとつ溜息をついた。 「そうか」  その短い一言にどんな感情が込められているのか、万葉には推し量ることができない。  万葉は思わず口を開いた。 「あのさ。忘れたくて忘れたわけじゃ、ないから。覚えてないのは治療のせいらしいんだ。でも……ごめん」     
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