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どうして直輝がそんなことを言うのだ。それは、万葉の台詞ではないのか。
歩行者信号の脇についている小さなランプがひとつずつ減っていって、ついにすべて消えた。信号が青に変わる。信号待ちをしていた人々が動き出す。
万葉と直輝だけが、交差点の手前で立ち止まったままだ。
「万葉」
背中越しに回された腕が、ためらいがちに緩められる。
「万葉が好きだ。ずっと前から、好きだった」
直輝の両手がゆっくりと下ろされて、万葉の小さく冷えた手を温かく包み込んだ。
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