§10

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「何度も何度も夢を見た。万葉が俺から走り去って、赤信号の横断歩道を渡って、トラックにはねられる夢。さっきはあの夢がまた現実になるんじゃないかと思って、せっかく治った心臓がいかれそうになった」  ぐらり、と傾きそうになる身体を、万葉は必死に踏ん張って支えた。 「直輝」 「ん」 「とりあえず、部屋の中に入れてもらってもいいか」 「あ、そうだな」  直輝が初めて気付いたように、振り返って扉を開ける。その後に続いて玄関に入り、扉が閉まった瞬間、背の高い後姿を突き飛ばしそうな勢いで抱きついた。 「うわっ?」 「くそう。全部、お前に先に言われた」 「万葉?」  レザーブルゾンを羽織ったままの背中に額を押し当てる。 「ごめん、直輝。俺の事故は、お前のせいなんかじゃない」  自分の弱さを呪う。あのとき逃げ出したりしなければ、事故に遭わずに済んだだろう。そうすれば、直輝にこんな十字架を背負わせることもなかった。  万葉が入院していた間ずっと、直輝は一人、万葉を忘れたことを悔いていたのだろうか。 「俺も、思い出した。大事なこと」  こんな自分が告げていい言葉かどうか、少しだけ躊躇する。その心を、大事なことは必ず思い出す、という直輝の言葉が後押しする。 「俺も、直輝が、好きだ。ずっと……好きだった」  この気持ちを忘れることなんて、できなかった。  しがみつくように直輝の身体に回していた腕を、そっとほどかれる。 「あのさ、万葉」     
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