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「何度も何度も夢を見た。万葉が俺から走り去って、赤信号の横断歩道を渡って、トラックにはねられる夢。さっきはあの夢がまた現実になるんじゃないかと思って、せっかく治った心臓がいかれそうになった」
ぐらり、と傾きそうになる身体を、万葉は必死に踏ん張って支えた。
「直輝」
「ん」
「とりあえず、部屋の中に入れてもらってもいいか」
「あ、そうだな」
直輝が初めて気付いたように、振り返って扉を開ける。その後に続いて玄関に入り、扉が閉まった瞬間、背の高い後姿を突き飛ばしそうな勢いで抱きついた。
「うわっ?」
「くそう。全部、お前に先に言われた」
「万葉?」
レザーブルゾンを羽織ったままの背中に額を押し当てる。
「ごめん、直輝。俺の事故は、お前のせいなんかじゃない」
自分の弱さを呪う。あのとき逃げ出したりしなければ、事故に遭わずに済んだだろう。そうすれば、直輝にこんな十字架を背負わせることもなかった。
万葉が入院していた間ずっと、直輝は一人、万葉を忘れたことを悔いていたのだろうか。
「俺も、思い出した。大事なこと」
こんな自分が告げていい言葉かどうか、少しだけ躊躇する。その心を、大事なことは必ず思い出す、という直輝の言葉が後押しする。
「俺も、直輝が、好きだ。ずっと……好きだった」
この気持ちを忘れることなんて、できなかった。
しがみつくように直輝の身体に回していた腕を、そっとほどかれる。
「あのさ、万葉」
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