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「友達じゃ満足できなかったんだ。万葉は……俺にとって特別だったから」
直輝が顔を上げた。切れ長の目に、怖いくらい真剣な光がある。
「ずっと、特定の誰かと深く関わらないようにしてきた。この心臓に何かあったときに、自分も相手も辛い思いをするのは嫌だったから。俺はいつこの世界からいなくなってもおかしくない人間だから、って心のどこかで常に考えてた」
万葉はしばし言葉を失う。周りから一歩引いたような姿勢の裏に、直輝がそんな思いを隠していただなんて。
「人から距離を置く癖がついてたから、何を考えてるかわからない、ってよく言われた。でも万葉は一度もそんなこと言わなかった」
それは自分がずっと直輝のことばかり見てたからだ、と今さらのように万葉は気付く。
「皆、自分の人生を素通りしてくだけだと思ってた。でも万葉だけは違った」
「……直輝」
「どうしてもすれ違えなかった。忘れても思い出した。ずっと傍にいたいって思った」
「そんなの、俺も同じだ」
直輝の顔を両手で包んで、その目を覗き込んだ。黒い瞳に万葉自身の姿が小さく映っている。きっと、万葉の鳶色の目の中にも、同じように直輝の姿がある。
「結局俺たち、どうやってもすれ違えないんだろうな」
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