§11

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 直輝が万葉を忘れてしまっても、万葉が直輝の記憶を失くしても。 「そうだといいな」  直輝が気配だけで笑った。口元も眉もぴくりとも動かなくても、万葉にはわかる。  直輝の目の中で、万葉も笑う。その影を引き寄せるように、今度は自分からキスをした。  直輝の唇の表面は、乾いた北風に晒されたせいか少しだけかさついている。それを潤すように、舌先でそろりと舐める。 「……っ」  その舌を、吸い込むようについばまれた。  背中にあった直輝の手が、万葉の後頭部に回される。 「万葉」  直接触れ合わせる距離で囁かれる自分の名前は、どこか背徳的な響きを帯びる。 「あ……直輝……」  つぶやいた名前の語尾をかっさらわれ、そのまま唇を吸われた。 「っ……ふ……」  背中が玄関ドアに当たると、直輝が庇うように片手を突っ張ってくる。ドアと直輝の身体との間に許されたわずかな空間で、万葉は与えられるキスを貪る。  ほどいた結び目をさらにこじ開けるようにして、直輝の舌が侵入してきた。 「んんっ」  呼吸ごと呑み込まれる。足の先から力が抜けていく。気が付いたら、すがりつくような格好で直輝のレザーブルゾンの袖を握りしめていた。  それでも直輝は容赦してくれない。 「なっ……な、に」     
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