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§12
自分が見立ててやったシャツだというだけで、ボタンを外す緊張感が倍増する。
「万葉。指、震えてる」
「お前、そういうのは見て見ぬふりをしろよ」
文句を言っても、直輝はなぜか嬉しそうに笑うだけだ。
ベッドに座ったまま不器用に服を脱がすと、直輝の引き締まった上半身が露わになった。
筋骨隆々というのではないが、肩幅がしっかりあって胸板も厚い、男らしい体型だ。しかし、しなやかな筋肉に覆われた胸元には、はっきりそうとわかる手術痕がある。
おずおずと手を伸ばして、その上に指を滑らせた。引き攣れたようないくつかの傷を辿りながら、直輝の心と身体が耐えてきた痛みを想像する。
掌を当てて鼓動を感じ取る。この心臓が一度止まりかけたのかと思うとたまらない気持ちになる。
すれ違ったきり二度と再会できなかった可能性だってあったのだ。
心臓の上に走る傷跡に唇を寄せた。さっきの仕返しとばかりに唇でなぞると、直輝が喉の奥で笑い声を立てる。
「万葉。くすぐったいから」
肩を掴まれたと思うと、そのままベッドの上に仰向けに押し倒された。
「あっ」
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