§12

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 直輝の片手が伸ばされてきて、万葉の髪を柔らかく梳き上げた。繰り返しそうやって髪を撫でられているうちに、全力疾走直後のようだった呼吸が少しずつ鎮まっていく。 「あのさ、直輝」 「ん」 「一緒に観たい映画があるんだ」 「知ってる」 「え。なんで」  直輝がいつものように、目だけで笑う。 「パリのクリスマスのやつだろ。万葉のバイト先の会社のウェブサイトで見た」 「うん……それ」 「クリスマスイブにでも、行こうか」  時間がぐるりと円を描いて、スタート地点に戻ってくる。三度目の冬へと、二人を巻き戻す。 「俺、まだ映画館に行ったことないんだ」 「え、そこは相変らずかよ」 「最初は万葉と行くって約束したから」 「……律儀な奴」  手を伸ばして、直輝の耳をそっと引っ張る。直輝がくすぐったそうな顔をする。  耳を引っ張った万葉の片手の上に、直輝の手が重ねられた。指の長い、掌の薄い手が、小さな万葉の手をすっぽりと覆う。 「なあ。この前見かけたあの手袋、万葉へのクリスマスプレゼントに買ってもいいか?」 「お前な、そういうのはサプライズにするもんだろ、普通」 「え? あ、じゃあ今の一旦忘れてくれ」 「やだよ」  万葉は直輝の手を強く握り返した。 「もう二度と、お前のことは忘れてやらない」  拗ねたようにそう言うと、直輝の肩に額を押し当てた。 「万葉」     
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