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ニンジンやらセロリやらカブやらの野菜を切って、ソーセージと一緒に煮込む。塩コショウで適当に味をつけたものを深皿に入れると、万葉はそれを部屋の中央のコタツテーブルに運び、ノートパソコンを立ち上げた。登録しているオンライン映画配信サイトを開き、ブックマークしていたタイトルをスクロールしていく。
事故に遭う前の数カ月は以前ほど頻繁に映画を観なくなり、「積み本」ならぬ「積み映画」ばかりを増やしていた。
正直、今見返すとなんでこんなものをブックマークしていたんだろう、と思うタイトルもある。ニューヨークでのクリスマスの夜の人間模様を描いたオムニバスなんて、全然趣味じゃないはずなのに。
むしろ興味がわいて、そのタイトルをクリックし、フルスクリーン表示にした。
映画を観ながら、のんびりとポトフを口に運ぶ。身体がじんわり温まってくる。ビールを飲み終えたら、スープの残りに解凍したごはんを入れて、粉チーズをかけたリゾットもどきにしよう。
「ん?」
だが、映画が始まって五分も経たないうちに、万葉は首を傾げてしまう。
これ、観たことがある。ようやくそう気付いた。
画面を見ていると、次の展開がわかる。この失業中の冴えない主人公はこの後、高校時代に憧れていた女性と再会するのだ。彼女が落とした手袋を拾ってやるそのシーンまで、くっきりと思い浮かべることができる。
「おっかしいなあ。いつ観たんだっけ」
わざわざ映画館に行った記憶はない。
「やれやれ、これも例の後遺症?」
頭を掻いて、ビールを一口飲む。
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