§1

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 日が暮れるのが随分と早くなったことに、空を見て気付く。  大学病院の自動ドアを抜けて一歩外に出ると、傾いた秋の陽射しが空気を薄紫色に染め上げていた。見慣れた風景がまるで外国映画のワンシーンのように見えて、木村万葉(きむらかずは)は思わず足を止めた。  建物の隙間から北風が吹き付けてきて、猫っ毛をくしゃくしゃに掻き混ぜていく。万葉は逃げ込むように、エントランスの傍らに立つ落葉樹の陰に身を寄せた。  しばらくそこに立ち止まったまま、カーキ色のダスターコートのポケットに突っ込んだ両手を握ったり開いたりする。手袋が必要な季節も間近だ。  この身体が、数カ月前には割れたガラス瓶か何かのようにぐしゃぐしゃに壊れていたなんて、実感がわかない。 「順調に回復している証拠ですよ」  主治医はそう言って笑っていた。経過は良好で、十一月からは復学しても問題ないというお墨付きをもらったばかりだ。半年間の空白期間を置いて、再び大学四年生としての生活が始まる。     
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