§3

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 夢を見た。  万葉は大学一年生に戻っていた。傘を差して、まだ全貌を把握しきれていない大学のキャンパスを歩いている。六月にしては肌寒いような気候だった。  万葉の通う東光大学は、郊外の丘陵地を切り拓いた土地に、医学部や理工系の学部、社会科学系の学部、万葉の通う文学部、そして大学院も集めた総合大学だ。隣には大学病院も併設されている。  敷地内は緑が多く、さながら広大な公園の趣だ。入学時には頼りないほど柔らかな新芽だった木々の葉は、一カ月足らずであっという間に濃密な緑に変わっていた。雨粒までがグリーンに染まりそうな土曜日の午後。  その日は、大学の映画愛好サークルの週に一度の会合日に当たっていた。希望して入ったサークルのはずなのに、なんとなく気が重い。手に持った傘までいつもより重く感じられ、深く前に傾けてしまう。  その傘の縁で切り取られた視界の正面に、ぬっと黒いスニーカーが現れた。 「おっと」  相手も傘で視界が遮られていて、ぶつかりそうになるまで気付かなかったのだろう。     
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