§8

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 バイト先に顔を出すのはほぼ半年ぶりだった。 「おー、木村。五体満足で戻ったか」  オフィスのドアを開けるなり、社員の岸谷(きしたに)が早速声をかけてくれる。 「どうも、ご迷惑をおかけしました」 「まったくだ。いきなり音信不通になりやがって」  この映画配給会社はまだ歴史の浅いベンチャーということもあって、全体的に社員が若く、ノリは学生の集まりに近い。岸谷もまだ二十代後半で、バイトの万葉に対して部活の先輩のような態度で接してくる。 「で、本当にもう身体は大丈夫なんだな」  長期入院した経緯を改めて説明すると、岸谷は真面目な顔になった。事故に遭った万葉と連絡が取れなくなってしまったときは、随分と心配をかけたようだ。 「前より健康になっただろうって医者に冗談言われるくらいです」 「後遺症とかないのか」 「他人の臓器を移植するのと違って、拒否反応とかは出ないんで」  万葉はさり気なくオフィス内を見回した。特に見覚えのない顔はなく、ほっとする。自分の記憶から消えてしまった人は、ここにはいないようだ。 「そうか。それにしても、よくそんな最先端の治療を受けられたな」     
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