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§9
その日は、大学の例のカフェで待ち合わせた後、直輝が独り暮らしをしている部屋で一緒に映画を観ることになった。
万葉の住んでいるところと比べると駅前が賑やかだ。風景に見覚えがないので、直輝の部屋を訪ねるのは初めてなのだろう。
ロータリーを抜け、幹線道路を渡った先には、スーパーや家電量販店などの大型店舗が並んでいる。その一角のDVDのレンタルショップに立ち寄る。
「今日は万葉の内定祝いだし、映画は万葉が好きなのを選んでくれ」
「お、いいのか?」
「ああ。もうアクションでもホラーでもなんでも観られるから」
そう言われたが、万葉はホラーのコーナーではなく洋画の旧作の棚に足を向けた。クリスマス特集が組まれていて、例のオムニバスのシリーズも取り上げられている。
第一作が、二年前に公開されたニューヨーク版。万葉の手元に前売り券が残っていたのが、去年のロンドン版だ。そして今年、パリ版が劇場公開間近、と店員の手書きによる作品紹介がある。
「決まったか?」
別の棚を眺めていたらしい直輝が、万葉の後ろから声をかけてくる。
「なあ、直輝」
万葉は振り向いた。
「俺、この映画、直輝と観る約束してた?」
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