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§10
「映画を観に行く約束をしたあのクリスマスイブの前の日に、俺は発作を起こしたんだ」
交差点を後にして再び一緒に直輝の部屋へと向かう道すがら、直輝は思いもかけぬ話を始めた。
「発作?」
「俺、心臓に先天的な欠陥があったから」
「……知らなかった」
住宅街を抜けながら、直輝はまるで他人事のように淡々と説明する。子供の頃は身体が弱く、学校を休みがちで友達ができなかったこと。高校のときに手術をしたが、その後も不整脈などの症状は改善されなかったこと。
万葉は答え合わせをするように、甦った直輝の記憶を「心臓疾患」という視点から辿り直していた。
いつも物静かで落ち着いていて、大声を出したり慌てたりする姿は見たことがなかった。コーヒーは好きだったがアルコールは口にしなかった。時々薬を飲んでいるところを見かけたが、「軽い頭痛だから心配いらない」と言われた。
どんなに勧めても、映画はホラーやハードなアクションには手を出そうとしなかった。スポーツは、見るのは嫌いではないようだが自分ではやらず、バッティングセンターにすら行こうとしなかった。遊園地の絶叫マシンには乗ったことがないと言っていた。
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