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執事学校
三月もなかばというのに、ここ松前郡長万部県小姓村には春のきざしはまだ来なかった。空はどんよりとした雲がたれこめ、朝からの雪で、あたりは真っ白に染められている。
見渡す限りの平原に、ぽつんと一軒のホテルが建っている。それほど規模は大きくはなかったが、建材や細かな装飾にはじゅうぶんに資金がそそがれ、まずは瀟洒な建物といっていい。
窓の外は一面の雪景色だが、室内はむっとするほどの暖気につつまれている。ひろびろとした部屋のあちこちには丸テーブルが置かれ、そこには着飾った男女が料理を前に談笑したり、あるいはチェスや、カードを手にのんびりとした勝負を行っていた。客たちの年令はさまざまだったが、共通しているのは贅沢になれた人間だけがもつ、傲慢とすらいえる落ち着きようであった。その間を、数人の執事や、メイドがひそやかにまわって、接客を続けている。
メイドの服装は紺か、黒の上着に足首までとどく長いスカート、白いエプロン。髪の毛は三つ網か後頭部でまとめている。
髪の毛が客の顔にふれたり、食べ物飲み物にたれることを防いでいるのだ。
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