花束をきみに

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「……ちょっと、付き合って」  神原がそう言ってきたのは、大学構内の学食で、カレーを貪っている時だっだ。 「飯、食ってからでいい?」  カツがびっしり乗せられたカレーを、まだ半分くらいしか腹に入れてない。神原も、注文した親子丼にほとんど手をつけず、先程からスマホの画面を眺めていた。 「それもそうか」と神原が卵と鶏肉を口に運ぶ。これで俺も、心置きなくカレーが食える。 「で、何に付き合えばいいの?」  食べながらでも会話はできるため、神原に問う。 「プレゼント、探したいんだけど」  スプーンで掬って口に運ぶはずだったカレーが、皿にボタリと落ちた。開いた口が塞がらない。神原が目に涙を浮かべる、のを通り越して、親子丼の上に大粒の涙をボタリと落としていたからだ。 その表情は、嬉しいようにも、悲しいようにも見える、複雑なものだった。普段から、よく分からないものがツボに入って笑い転げたり、そこか、という所に怒ったり、恥じらうところがずれていたりと、予測できない感情の変化を見せているが、神原自身も、自分の今の感情を理解できてないのかもしれない。 「神原、大丈夫?」 「え?ああ、ごめん。食べる、食べるよ」  そう言って、袖で涙を拭ってから、親子丼を自分の口にねじ込む。 「……商店街とか、色々ジャンル揃ってるよ?」  神原のプレゼントは誰に宛てるものなのか分からなかったが、聞いてはいけない気がしたので、老若男女御用達のお店がひしめく商店街を提案した。 「うん。いいね、商店街」  各々の料理を無言で食べ終え、学食を後にする。その頃には、神原に笑顔が戻っていた。 「女の人って、何あげたら喜ぶかな?」    活気のある、とは言い難いが、それなりに人の行き交うアーケードを並んで歩きながら、神原が呟く。 「女の人……」  神原に彼女ができたとは聞いていないが、そういう事なのだろう。きっと、そういう事なのだろう。形容し難い寂しさに襲われる。 「……やっぱりアクセサリーとか、かな」 「だよね……じゃあ、ここ寄っても?」  神原が立ち止まり示したのは、いかにも男2人では入りにくい、煌びやかなジュエリーショップだった。
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