花束をきみに

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   連れてこられたのは、霊園だった。  見事に晴れた青空に、整然と、どこまでも、墓石が並んでいた。    『神原家之墓』と書かれた墓の前で、神原は粛々と手を合わす。俺も習って手を合わせた。神原の涙の訳は。かすみ草の花束を贈る相手は。俺は固く目を閉じて、己の浅はかさを懺悔する。 「神原、ごめん。墓参りだったんだな。俺はてっきり彼女……」 「ちょっと隠れてて!」  墓石の陰に押し込まれる。連れてきたくせになぜ隠れなくてはならないのか、訳が分からなかったが、それはいつもの事だなと思い、おとなしくしゃがんで身を隠した。 「俺がちゃんと出来てるか、見てて」  神原が小声で指示を出す。何が出来ているところか、またしても分からなかった。「了解」と囁いて返すが、墓石にブロックされ届かなかったかもしれない。それにしても、他所様のご先祖が眠る場所で、俺は何をしているのだろうか。失礼してます、ごめんなさい、と頭の中で唱えていると、ぱたぱたと軽い足音が聞こえてきた。 「かーくん!久しぶり!」  柔らかい感じの、女性の声だった。今の体勢では姿は確認できないが、とても優しい顔付きの、ふわりとした女性だと思った。 「うん‥‥あの、これ」  神原が、信じられないくらい小さな声で、きっと花束を渡したのであろう。いつもの図々しさはどこに行ったのだろうか。その顔を拝みたくてじわりと体勢を変えて、墓石の隙間から慎重に覗き込んだ。ふと考える。今、目が合えばホラーだ。 「私に?ありがとう!」  想像していたよりも少し地味な感じの、けれどとても優しそうな女性が神原に笑顔を向ける。年相応の、落ち着きのある笑顔だ。神原は、幼稚園児みたいにもじもじしていた。 「報告、しないとね」  女性が、墓と向き合う。つまり、俺がいる空間を見ている。できるだけ小さく縮まり、息を潜めた。
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