花束をきみに

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「おじいちゃん、私、結婚します」  ばらばらだったパーツが組み合わさっていく。この女性は、神原の彼女若しくは、彼女になる予定の人ではなく、お姉さんだ。そして神原は、お姉さんの事が大好きらしい。結婚を憂いて泣き出す程に。 「お姉ちゃん、お……おっ……」  俺が見届けるのは、神原が最愛の姉の結婚をちゃんと祝福できるかどうか、というわけか。何にせよ、全てにおいて説明不足だ、と抗議したいところだが、まあ、それもいつもの事だなと思い、見守ることにする。 「お……おっ、お!……隣さんにも、挨拶しないとね」 「そうだね、お姉ちゃん行ってくるよ。かーくん、お花ありがとう!式の時もよろしくね」  神原のお姉さんは、イタズラっぽく笑い、小走りで元来た道を戻る。俺はわざとらしく咳払いをする。神原、ラストチャンスだぞ。 「お姉ちゃん!おっ……おっ!」 「なにー?」 「お隣さんによろしく!」 「うん、わかったー!」  神原は、お姉さんが見えなくなるまで手を振り続け、その後で「もう出てきて大丈夫」と俺に言った。 「痛っ」  俺は、神原のこめかみ辺りを肘で軽く小突く。言わんとしている事を先読みし、神原が言い訳を始めた。 「分かってるよ!でも、やっぱり、寂しさの方が勝っちゃったんだよ」  優しそうなお姉さんだった。神原の事を理解し、寄り添い、今までずっと、支えになっていたに違いない。まるで、宝物を盗られてしまったような、そんな気持ちになっただろうか。涙目になる神原の背中をポンポン叩く。 「……ま、想いは伝わったはずだよ」 「伝わってないよ。おめでとう、言えなかったんだし」  俺は青空を見上げ、まぶしさに目を細めながら、神原を励ますためのセリフを口にする。 「だって、『おめでとう』も『寂しい』も、全部を込めたんだろ?花束に」  口下手な神原は、一生懸命選んだあの花束に、全部託してプレゼントしたのではないだろうか。小さな白い花を思い出す。あの花束のように、少しの勇気をたくさん束ねて、お姉さんを祝おうとしたに違いない。 「は?何言ってんの……ちょっと気持ち悪いよ?」    今度は強めに、肘鉄砲をお見舞してやった。
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