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「褒めても何も出ないけど」
「いいよ。俺が奢るからメシ行こ。うちの最寄りだけど、美味いとこ見つけたから」
「いや……今日は、ちょっと」
夕方には終わると聞いて、誘われるんじゃないかと予測していた。カツヤの家族にコメントを貰いに行くだけなら殆どふたりでいる時間はない。けれど食事ともなると別だ。初めから決めていた通りに告げると、城築は残念そうに眉を下げた。
「予定あったんだ……時間大丈夫?」
「それは、大丈夫」
「もしかしてこの間言ってた子とデートとか」
本当は予定などない円は苦笑いで誤魔化す。積極的に嘘を言うことはしないが、城築の勘違いを正すことはしない。
「そっか、じゃあ仕方ないな。付き合うことになったら紹介しろよ」
「…………そうなるといいけど」
絶対に紹介なんて出来ない。内心を隠して答えると、城築は頷き返した。
「倉橋なら大丈夫」
城築の信頼が胸に痛い。どこまでも求められる「よき友人」という立場に、円は叫び出したくなった。
――まだ、城築のことが好きだ、と。
円が立ち竦んでいると一陣の風が吹き付け、咄嗟に目を瞑った。目元に掛かった髪を払った時にはもう、城築は背中を向けて歩き出していた。
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